見ざる聞かざる言わざる

見ざる聞かざる言わざる

天秤術師

 私には物心つく前から親友のぬいぐるみと一緒に育ってきた。魔法使いの【いっちゃん】今でこそあのぬいぐるみの力は呪術だったと理解できる。



「おねえちゃん! どこー? 暗くてわからないのー!」


 真っ暗闇の中、一人真っ直ぐ進む。誰に声をかけてるのかすらわからない。光が見えなくて、自分の存在すら消えてしまいそうで。ただ、怖かった。


「……おとうさん……」


 たすけて


『大丈夫?』

「ッハ!」


 夢……だったみたい。横に寝ているカエルの姿をしたぬいぐるみが私に声をかける。周りにはうさぎのピィちゃんやカメの吉くんもずっと側に居てくれて、私を安心させた。

 沢山のぬいぐるみに囲まれて、一安心つけた。


「う、うん……私、あくむを見てたみたいで。ありがとういっちゃん。ずっと呼んでたの?」


『ずっとうなされてたから! はやく起こしたかったの! これからあそぼうよ!』


「じゃあ、まずご飯食べてからね!」


 朝ご飯はパンにマーマレードジャムを塗って、牛乳を飲む。そしてぬいぐるみ達を小さな椅子に座らせるの。でもいっちゃんは他のぬいぐるみより大きいから私の隣に座らせる。


 お母さんは今日もいない。



「いっちゃんは大きくなったね!」

『みつきちゃんもね』


 私の事をぎゅっと抱きしめてくれる、大好きな存在。私だけの特別な存在。他の人にはわからない関係。


「今日はぬいぐるみと魔法であそぼう!」


 ピィちゃんと吉くんに力を込めるとゆっくりと動き出す。

 この力はいっちゃんから教えてもらったの、だからいっちゃんにも使おうとしたんだけどね。

 でも、いっちゃんには必要ないらしい。魔法使いだから自分で動けるんだってさ。凄いよね。


「やー! ピィちゃん、いっちゃんにビームだー!」

『うわーーー! やられた〜〜』


 私達の友情の証ビームにやられたぬいぐるみはポテっと、床に倒れる。

 私達の勝利、ワルモノをやっつけたのだ!





「なにをしてるの?」


 ふと、私の陰が大きくなり私達を覆った。上から聞こえるのは、心の臓を貫く冷たい声。



「おかあさん……えっと、みんなと遊んでて……」


「みんな? それはぬいぐるみでしょう? いい加減ぬいぐるみ遊びはやめなさ」


 咄嗟にぬいぐるみを母親に投げつけ、そのまま部屋に逃げてしまった。私を見る目が怖くて、声が出なくて、嫌だった。どうして、そんなに悲しそうな目で見るのかわからないの。私が悪いのかな。


  あーあ また話せなかった。意気地なしだね。



 時間はたって21時。

 久しぶりに揃った3人でのご飯もあまり喉を通らなかった。夜になっても、もう寝た方が良いのに目が冴えて眠れなかった。

 久しぶりにおかあさんが帰ってきたのに……どうしよう。水が飲みたい、そう思って階段をゆっくり下りてると、声がした。

 おかあさんの声だ。


 おとうさんと話してるかな? リビングに足を踏みこ――


『部屋に戻ったほうがいいよ 光輝』


「……なんで?」


『そのまま どうか』


『忘れて』


 うん




「だから養子なんて取りたくなかったの!! ずっとぬいぐるみとばっか遊んでて、私と会話もしない!

 伊月が死んでからすぐに引き取るなんて!! 貴方ふざけてるのよ!」


「悪かった。俺が悪い、だが光輝はちゃんと母さんとの子供だ」


「私の記憶にないのに毎回毎回、信じるわけないでしょう!? 伊月は不慮の事故だったって。私はこんなにも元気なのに、なんで私が無事で、伊月が死ぬの……」







「おはよう」


 ぬいぐるみ達に朝の挨拶をする。でも一つだけ足りない。あれ、いっちゃんは?


 おとうさんにきいてみよう。きっと答えてくれるよね。


「ねえ。おとうさん、私のぬいぐるみは? カエルの、デカい。ぬいぐるみ」


「……そのぬいぐるみはデカくてもうベッドに入らないだろう? リビングにも邪魔になるからって、それに今日から母さんは別の新しい家に行くんだ。だから持っていって貰ったんだよ」


「そうなんだね」


 でも、それなら最後に遊びたかったな。


Report Page